第7章 夜陰の逃避行~思わぬ酔宴
今はただ、無自覚かつ無防備歩行を行っている主を捕縛するのみ。
そう考える間もなく、刀剣男士の身をもってすれば距離は見る間に近づき、すぐに少女の行く手を阻むことはできる。
だが…不意に、蜂須賀は気難しげに顔を顰めた。
○○は、自ら進んでこんな風に歩き回ることをしない。
少なくとも、今まではそうだった。
まあ、こんな時間に…とそれはそれで、後でしっかりとその危険(?)を説くとして。
自室に籠もりがちで、食事さえ自らの室で済ませていた少女が、今や鍛刀部屋へ赴き、刀剣男士らが集う居間での食事に臨んだ。
それは今日…たった一日での出来事……。
その時間の中で、○○は大きく前進した。
端から見れば微々たるものだったとしても、これまでの少女の辛そうな姿を知ればこそ、これは大きな進展なのだと、蜂須賀には理解できる。
そして今また、○○が自らの意思で何かを成そうとしているのだとしたら……。
ふと浮かんでしまった自らの思考に、蜂須賀は○○を止めることを躊躇った。
それに、状況を考えれば、ここは本丸御殿の中だ。
しかも○○の室はその中でも最奥に位置し、庭に流れる小川に掛かる橋を渡った先…という、所謂、離れのように独立した一棟がそのまま審神者の居住空間となっている(その中には○○の自室の他、専用の風呂からキッチンからトイレ、果ては小振りではあるが少女専用の書庫もあり、審神者として必要となるだろう書物のほとんどが揃えられているという徹底振りだ)。
もっとも、今は主自らが、最も安全なはずのそこから離れつつあるわけだが。
そうはいっても、本丸御殿の内であることは変わりはない。
無論のことだが現状、ここ敵はなく、○○が害される可能性は限りなく無に等しい。
それなら…と、とある思案が蜂須賀の中に浮かんだ。
(このまま、主の気が済むまで……)
それまで見守っているのも、あるいはありなのかもしれない。