第7章 夜陰の逃避行~思わぬ酔宴
それでも、そうした少女の一面は、形こそ違えど、同じく己の責を全うしようとしている蜂須賀の目には好ましく映った。
にも関わらず、今この時ばかりは、少女のそれが何やら恨めしく感じるのは、蜂須賀の気のせい…では、恐らくないだろう。
良きにつけ悪しきにつけ、一度集中すると一つのことに没頭してしまうという部分にも、あるいは通じるものがあるのかもしれない(鍛刀の時が良い例だろう)。
(などと、考えている場合ではない)
ふと追想に浸ってしまった自分に突っ込みを入れながら、蜂須賀は○○に休むよう進言すべく視線を向ける、と、そこには今の今までいたはずの…開け放たれた奥の間の襖の向こうにいるはずの○○が消えていた。
(何という不覚!)
思索に耽って主の気配を追えぬとは。
自らを諌めながら腰を上げれば、蜂須賀の五感に、すぐさま主たる少女の気配が伝わった。
まだ…そう遠くはない。
だが、何処かへ向かって遠ざかろうとしているのは確かだ。
「まったく、主はどうしてしまったのだ」
寝付きが悪いのはよくあることだが、このような宵に寝間を出るなど、今まではなかったというのに。
「主!」
瞬間、蜂須賀は身を翻し、○○の気配を求めて廊下へと走り出す。
果たして、求める存在は淡い月光に照らされた長い廊下の、程近くにあった。
急いでいる風もなく、裸足のまま、ぺたぺたと廊下の板床を進んでいる。
その姿は、不敬とは思うが、主というより、まるで童のような……。
「そうではないだろう」
思いかけた自分に、またも蜂須賀は突っ込みを入れる。
このような時間に…本丸の内、敵のいない場所とはいえ、女性が一人彷徨うなど…まして、今しも眠ろうとしていた少女の出で立ち…パジャマというそれは、身体の線を薄らと浮き立たせてすらいる。
肩から羽織っている上着では丈が短すぎて、○○の身を覆うには当然ながら至っていない。
それを…恐らく、きっと…多分、当人は完全な無自覚なのだろうけれど。
(あのような姿でふらふらと……!)
「誰かの目に触れたらどうするつもりだ」
蜂須賀の目に触れるのは問題はないのか、という突っ込みを入れるものは、生憎とここにはいないし、蜂須賀自身もそこは突っ込まない。