第7章 夜陰の逃避行~思わぬ酔宴
刀剣男士は、そもそもが人間とは違う。
それは○○も分かっているはずで、なのにそんな表情をする少女が、当初は蜂須賀には理解できなかった。
しかし少しずつ…是非もないまま、主と初期刀として関わっていく中で、蜂須賀は正論だけを唱えても少女を納得させることはできぬことを学んだ。
眠りなど…食すらも、必要ない。
そんなことは主も知っているだろう…と、だから気に掛けてもらうべき何ものもないのだ、と。
事実だけを並べるのは、いっそ容易だ。
現実に、蜂須賀も始めはそう口にしていた…が、やがて、その言の葉は形を変える。
『ならば…俺も仮眠させてもらう。それで問題ないだろう?』
○○を眠らせる為の方便…という理由もあったが、主の願いを汲む形で、そんな妥協案を持ち出したのは、蜂須賀の方だった。
以来、○○は奥の間に、近侍である蜂須賀は二の間に床を設えている。
そうして時に、ぽつぽつと言葉を交わし、○○はやがて奥の間の襖を閉じ、眠りに就くのである。
なのに今夜に限って、それは違っていた。
○○はパジャマに上着を羽織ったまま、一向に休む気配を見せない。
襖も開け放ち、二の間との境に程近い場所に座ったままだ。
「主、どうしたのだ?」
「え?」
「いつもなら、とうに休む頃合いだと思うが」
「…そう、なんですけど……」
「けど…何だ?何か問題が?」
問いかけて、蜂須賀は、ふと思い至った。
そういえば○○という少女は、一度何かを気にし始めると一人でぐるぐる考え込んでしまうところが、多分にある。
よもや、ここに至って一人何かを思い耽っているのだろうか。
そんな懸念が蜂須賀の脳裏をよぎった。
あながち考えすぎとは言い切れない、それは初めて出会った時から見受けられた、○○の一面……。
不安に苛まれ、涙に暮れて、それでも(自ら望んだ結果ではなくとも)成すべきを成すために、進む道を模索するように、苦しみながらも考え、足掻き続ける。
そんな性情を伴として、そうして今日に至った者こそが○○という少女なのだ。
もっとも、ぐるぐると考え悩み、何かと気にしすぎてしまう辺りは、時に己で己を追い込んでいるかのようでもあったが。