第6章 監理官の影
全てが始まった、最初の、あの場所……。
突然のことに呆然としていた○○を、当時、未だ刀の形であったが、蜂須賀は覚えている。
(あの場にあった者など、恐らく主は覚えていまいが……)
事実、いきなりの出来事に○○はただ立ち尽くしているだけで精一杯だったが、蜂須賀はあの場の空気…そこにいた存在、そしてその、思い出しても好ましからぬ(ここは蜂須賀主観だが)面構えをはっきりと記憶していた。
あの瞬間、あの場にあって冷ややかに○○を見下ろし、何処か酷薄に笑ってさえいた男こそが紫城なる、このメールを送りつけた監理官なのだと、蜂須賀は知っている。
だが、幾ら腹立たしくとも、相手は監理官だ。
この意味もまた、蜂須賀は理解していた。
正式な命令という形ではないにせよ、これを無視することは○○にとって良い結果をもたらさないだろう。
それは蜂須賀も、こんのすけも意見を同じにするところであり、そして。
「鍛刀に成功したからってこと…かな」
確かに鍛刀を行えば、その記録もまた、本丸のシステムによってすぐさま監理官へもたらされる仕組みであることは、承知しているが。
今日の今日…という出来事だ。
その上、一部隊に必要なのは本来……。
「一人、足りないのに」
刀剣男士たる彼らを示して、一口とも一振りとも言わず、○○は『まだ一人足りない』と嘯いた。
一部隊の要員数は六。
にも関わらず、初期刀を含めて、本丸に在るのは五……。
それでも出陣なり、遠征なりを促してくる意図は何なのか。
新参の審神者。
顕現したばかりで練度の低い…しかも一部隊に満たない刀剣男士……。
そこへ舞い込んだこれは、普通に考えれば。
「何、これ。嫌がらせ?」
会ったこともない相手(と○○は思っている)からこんな仕打ちを受ければ、自然にそう感じてしまうことだろう。
不快に眉間を寄せる○○の反応は至極当然で、蜂須賀も同様に面を顰めた。
「ふん、随分と仕事熱心な監理官のようだな」
言いながら口の端を歪める様子を見上げていたこんのすけは、二人の気持ちを十分に察しながらも政府と審神者…つまりは監理官と審神者の間を取り持つことをも己の使命とする身として、やんわりと口火を切った。