第5章 食卓を囲んで
「非常事態というわけではないようですが。本丸のシステムも、審神者様宛に送られたメールの受信を感知するのみで、内容に及ぶことはございませんので」
他人宛の…しかも本丸の主人宛のものを、勝手に覗くなど論外である。
ふむふむ、とこんのすけは頷きながら、○○に確認を促す。
しかし今は刀剣男士達を部屋に案内するところで…それにこれは、○○にとって、とある二人に抱いてしまった『苦手』を少しでも克服しようという一大イベント(大袈裟かもしれないが○○には至極重要事項である)でもあったのだが。
「主、案内は俺がしておこう」
どんな内容かは分からないが、それが知れぬ以上は尚更、今は政府からの連絡とやらの方が重要だ。
その言葉は正論で、○○は彼に後事を託すほかなかった。
「それじゃ、お願いします。蜂須賀さん」
「ああ、任せてくれ。終わり次第、俺も行く」
蜂須賀の言葉に甘える形で、○○はこんのすけと共に、一足先に自室へと向かう。
その背を見送りながら、これも近侍の務めだしな、と吐息する蜂須賀は、やれやれ、と言いたげに、しかし何処か楽しげに、薬研には見えた。
「蜂須賀の旦那?」
「何だ」
「いや、何だ。どっか楽しそうに見えたんでな……」
俺の気のせいかな、なんて薬研が軽く水を向けてみれば、蜂須賀は一瞬驚いた表情を作り、それから薄く微笑んだ。
「そう見えたのなら、そうかも知れんな」
「ふぅん?」
納得したのかしないのか、判然としない薬研には頓着せずに、蜂須賀は新たな仲間を奥へと先導していく。
しかし、その脳裏には…薬研に言われたからではないが、と自分で自分に何となく言い訳しつつも、○○の姿が浮かんでいた。
最初はただ泣いて喚いて、いわゆる八つ当たり、というものもされた。
こんのすけは見た目は小さな動物(というより狐)だし、そうなれば標的(?)となるのは自然、己しかなかったろう、と蜂須賀は反芻する。
泣いて怒って、こんなのは嫌だと拒絶もして。
それから…少しずつ、少しずつだが、少女は前を見るようになり、涙する時間が減っていった。