第5章 食卓を囲んで
でも。
でも…である。
「ほら、大将。ちゃんと見せてみろ」
「そうだ、主。見ねば手当もできんだろう」
「大丈夫ですか?あの、布を濡らしてきたので、顔を……」
上げてください、と最後に言ったのは前田だったが。
でも…なのだ。
そんな風に色々言われたって。
(絶対、ムリ!!)
「たーいしょ」
(やだ、ムリ!こんなみっともないのに…やだやだやだっ)
○○にしてみれば、今、顔なんて上げられない、上げたくない。
だから、まるで宥めるように声を掛けてくる薬研にも、首をぷるぷる振るだけで精一杯で、顔を上げるなんてできるわけがなかった。
そんな自分が駄々っ子のようだと分かっていても…それでも。
(は、恥ずかしいっ、も…やだ……)
もちろん額は痛いし、じんじんしている(それほど強打したわけではないはず…だから、赤くなっている程度だろうが)。
けれどそれ以上に、どんな顔をしたら良いかも分からない。
少しでも審神者らしく、しっかり挨拶するはずだったのに……。
こんなオチなんて、我ながら間抜けすぎる。
情けなさ過ぎて、いっそ○○は泣きたいくらいだ…というより、気を抜くと本当に涙が出てきそうで、○○はそんな自分を堪えていたというのに。
「主」
「………っ!?」
声と同時、くい、と何とも簡単に肩ごと上体を起こされ、○○が絶句する間もあらばこそ。
「これで冷やしてください」
ひやり、と冷たい布が額に触れ、しかしそれも束の間、また別の誰かによって剥がされて。
「ちょっと赤くなってるが、これくらいなら大丈夫そうだな」
なんて診断する声と同時…○○には見えなかったが、薬研がこんのすけに耳打ちする。
「それでしたら、すぐにご用意できますとも」
快諾するこんのすけの声…と、これまたほぼ時を同じくして、こんのすけから何かを受け取ったらしい薬研が、何かをしている。
と思う間もなく、彼はその『何か』を塗布したものを○○の額に乗せると、流れるような手際で医療用のテープ(だろうか)でしっかり固定してしまった。
「こいつは腫れに利く薬だ。心配しなくて良いぜ、大将」
正しく、あれよあれよという間に…しかも呆然自失状態な○○は、もはや何も言えないまま、額の治療(?)は完了したのだった。