第1章 強制召喚
何と呼称して良いものやら、とりあえず『さん』を付けてみる○○に、彼…蜂須賀は、静かに膝を折った。
その様に、○○は驚くやら恐縮するやらだったが、彼にとってのそれは至極当然であるようで。
「刀剣男士にとって、己が主とはかけがえのなきもの。貴女なくして、俺はこの場に存在すらしえぬのだから」
「……………」
どう返したら良いものか、そのまま口を噤む○○を前に、蜂須賀は綺麗な笑みを浮かべた。
「主は俺を人の姿へと顕現させた。その能力は本物だ。だからもっと堂々とすれば良い」
「ど、堂々…って」
そうは言われても、初期刀である彼を顕現させたあの瞬間は、何も分からないままの出来事で、自信と言われても…とも思うのだが、彼が自分を励ましてくれていることは、○○にも分かったから。
「…ありがとう、ございます」
簡単には、そんな風にできそうにないけど、と続きそうになる声を○○が呑み込めば、蜂須賀は満足そうに笑みを深くした。
「礼など不要だ、主。真作たる俺を顕現させた貴女は、真なる審神者」
「真作?」
耳に馴染まない響きに違和感を感じながら○○が鸚鵡返しに呟く、と、蜂須賀はそれまで見せていた笑みの色を僅かに変化させた。
「世には何につけ、贋作も多いものだからね。でも、主はそうではない」
苦笑…とも取れるものを浮かべながら呟いた蜂須賀は何処か遠くを見ているようで、しかしすぐに、その目を○○へと戻した。
「俺の主は目利きだ」
言いながら、蜂須賀の手は遠慮がちに、けれどしっかりと○○の手を柔らかに取り、そっと、唇を寄せる。
「は、ははは、はちす……っ」
瞬間、あわあわする少女に目を細めて、蜂須賀は静かに手を離した。
「これは…失礼を」
ふわり、と優しく細めた瞳…けれど、何処か楽しげな色を滲ませて、蜂須賀はその場に立ち上がる。
「念の為、本丸周辺を巡回してこようと思うのだが、良いだろうか、主」
「え?」
「その間、主を一人にしてしまうが」(←こんのすけは勘定に入っていないらしい)
この地(といっても本丸のあるここが、一体どんな場所なのか○○にはよく分かっていないのだが)に着任したばかりだから、危険はなさそうだが…と蜂須賀は一人嘯いた。