第3章 出会い-薬研藤四郎という少年
そうなると、真面目に心配させてしまうのが申し訳ないようで、○○は…言いたくないが、本当なら、自分から言いたくなんてなかったが、でも。
「そうじゃ、なくて……」
「ん?」
先を急かす様子もなく、薬研は○○が次の言葉を綴るのを待つ。
その雰囲気に後押しされるように、○○は俯きがちになりながら、早口に吐き出した。
「私……方向音痴、なの」
それだけ嘯いた瞬間、薬研がきょとん、とするのが○○には分かった。
『自分は方向音痴です』なんて、改めて口にするのも恥ずかしいのに、これはまた、恥ずかしさが倍増だ。
(だから言いたくなかったのに!)
○○は顔が熱くなるのを感じながら、だから調子が悪いとか、そういうわけじゃないから、と捲し立てるように継げると、そのままぐりん、と、身体の向きを変えた。
そうして薬研の視線から一瞬逃れながら、○○は、あれ?と、思った。
(私…今、普通に喋ってた?)
元は刀剣といえど、今や人の姿である。
言葉を交わして不自然なことなど何もないのだが、○○にとって問題はそこではない。
問題なのは……。
「どした?大将。もしかして本当にどっか具合悪いんじゃないのか?」
隠してくれるなよ、と継ぎながら、薬研がするり、と○○の前に回り込む。
その仕草に再び驚きながら、けれどやっぱり。
(平気だ……)
ぱちぱちと瞬く○○に不調などなかったが、沈黙という少女の様子は、他者の不安を煽るには十分だった。
○○より少しだけ背の低い少年は、下から○○の表情を確かめるようにしながら、眉間を寄せる。
じいぃ、と見つめる、というよりは些細な変化も見逃すまいとするような薬研の眼差しを感じた○○は、ここに至って要らぬ誤解を招いていることを悟り、慌てた。
「ち、違うよ!本当に何処も何ともないからね…あ、ないです、から」
うっかり崩れてしまった語尾を修正しつつ○○が首を振れば、薬研は束の間腕を組んで怪訝そうにしながらも、○○の言葉をとりあえず信じてくれたようだった、が。
「別に、俺にそんな言い回しはいらないぜ?」
「え?」
「今、言い直してただろ。あれ、俺には別にいらねえし」
「え、けど」