第4章 君の存在~藤堂平助編~
それから一月程たっても志信は帰って来なかった。
寝ていても起きていても有希への謝罪に支配されていた俺の心の中は、今ではその殆どを志信が占めている。
その夜も縁側に座って見事な満月を見上げていた俺の隣に、いつの間にか傍までやって来ていた一君が腰を下ろした。
月明かりに照らされた一君の顔が何だか嬉しそうに見えて
「一君……どうしたの?」
と聞いてみる。
一君はじっと俺の目を見つめてから静かな声で言った。
「有希に……会った。」
「え………?」
「記憶が戻ったらしい。
それで…平助への伝言を預かっている。」
俺はごくりと喉を鳴らす。
「お前の想いに気付かぬまま
甘えてばかりいてすまなかった……と。」
「…………………っ」
「それから、その想いに応えられず申し訳無い……と。」
「はっ……はは。何言ってんだよ、あいつ。」
思わず笑い出してしまったけど、それとは裏腹に目の前に居る一君の姿がじわりと滲んだ。
「ありがとな、一君。何か…凄え救われた気分だ。」
「平助に会いたいとも言っていたが、
お前にその気は無いだろうと思い断っておいた。
……構わなかったか?」
「ああ…充分だよ。本当にありがとう。」
俺の言葉に一君は何も言わず、ただ優しく微笑んでいた。