第4章 君の存在~藤堂平助編~
市中を抜けて山道に入る手前で志信の背中を見つけた。
「志信っ!」
大声で呼び掛けて駆け寄ると志信は心底驚いたように目を見開いて振り向く。
「平助……どうして…?」
「何で黙って行っちまうんだよ?」
俺が苛立たしく問い詰めると
「……ごめん。急いでたから……」
そう言って悲し気に目を伏せる志信の身体がとても小さく感じた。
「あ……そうだよな。親父さんが亡くなったんだもんな。
……こっちこそ、ごめん。」
お互いに何も言えずに向かい合っていると、志信の方がけりを付けるように「じゃあ、行くね」と歩き出す。
「なあ、戻って来るよなっ?」
背中に問い掛けると、志信はまた足を止めて振り向いた。
「分からない。」
その答えに俺の鼓動がどくどくと激しくなる。
「俺の…せいか?」
「…………自惚れないで。」
「………………っ」
「自分の人生を平助一人に左右される程、私は弱くないよ。」
志信はにっこりと笑ったけど、何故か俺にはその笑顔は泣いているように見えた。
「母さんもあまり丈夫じゃないし、まだ小さい弟と妹も居るからね。
だから向こうで仕事を見つけて……
母さんを支えてあげたいの。」
「………そっか。」
「ありがとね、平助。……楽しかった。」
抱き締めたい。志信に触れたい。
大丈夫だって抱き締めて、連れ去ってしまいたい。
なのに……どうして俺は動けないんだろう。
「もう行かなきゃ。じゃあね。」
志信はもう振り返る事無く歩いて行く。
その遠ざかる背中を捕まえるように俺は手を延ばし、掌に閉じ込めるように拳を握った。