第4章 君の存在~藤堂平助編~
「そんなんじゃねえんだよ。
有希が誰と居ようが、俺が何かを言える筋合いはねえんだ。」
「ねえ……一体あの娘と何があったの?
本当の事、教えてよ。
もう……そんな平助、見てられないよ。」
何も言えずに目を反らした俺に、志信が掴み掛かって来た。
「私の事を好きになってくれなくてもいいよ。
でも、私は平助が好きだから……
平助には幸せになって欲しいの。
苦しんでる平助なんてもう見たくない!」
ついに耐えきれなくなった志信の目からぽろぽろと涙が零れるのを見て、俺は………覚悟を決めた。
「お前さあ……有希を見てどう思った?」
突然の俺の問いに、志信は不審気に眉を寄せた。
「あいつ……小さくて細っこくて…可愛かっただろ?」
「何言ってるの……平助?」
「俺はさ……そんなあいつを強姦したんだ。」
志信が息を飲んだ。
「泣き叫ぶ有希を縛り上げて、殴って……無理矢理した。」
「………嘘。」
「嘘じゃねえよ。
…………しかも、あいつ…俺が初めてだったんだぜ。」
志信の身体がかたかたと震え出した。
それでも気丈に俺を睨み付けて
「嘘でしょう?……どうしてそんな嘘を吐くの?」
何度も嘘だと繰り返す。
「嘘じゃねえって言ってるだろ。何なら一君に聞いてみろよ。」
「斎藤さんに……?」
「ああ。一君はその現場を見てるからな。」
青ざめて立ち尽くす志信を、俺はじりじりと壁際に追い詰め
「何だったら……お前にもしてやろうか?
俺の事、好きなんだろ。」
手首を掴んで壁に押し付けると、素早く首筋に舌を這わせた。
「……………っ」
志信は俺を思いきり突き飛ばして、悲しそうな顔で睨み付けると早足で部屋を出て行った。
………これでいい。
俺なんか嫌になった方が志信の為だ。
いや……違うな。
志信の為なんて、この期に及んで何を格好良い事を言ってるんだろう……俺は。
全部、自分の為だ。
これ以上、志信の真っ直ぐな気持ちをぶつけられると甘えてしまいたくなる。
何もかも忘れて志信に縋り付いてしまいそうになる。
そんな事、許される訳が無いのに……。
俺が志信を欲しいなんて思っちゃ駄目なんだ。