第4章 君の存在~藤堂平助編~
後ろを振り返った男が彼女に二言三言何かを言うと、一直線に私に向かって来る。
そして私の目の前まで来ると顔を覗き込んで笑顔で言った。
「僕達に何か用かな?」
「あの…えっと………」
私が言い淀んでいると
「君……誰?」
と単刀直入に聞いてくる。
「私は……藤堂さんの………」
その瞬間、男の顔から笑顔が消えた。
「………平助の何?」
背筋が凍るような冷たい声で問われても、私は何も答えられない。
だって私は平助の何でもないから。
何も話せないままでいる私に、男はまた笑顔に戻って言う。
「まあ、別に何でもいいけど……
でももう、あの娘の前に姿を見せないでくれるかな。
次に僕があの娘の近くで君の顔を見つけた時は………」
男の顔がぐっと近付いた。
「殺すよ。」
笑顔でそう言う男の目は氷のように冷たい。
この人、本気なんだ……そう思ったら背筋がぞくりと寒くなった。
「じゃあね。」
男は小走りで彼女の元へ戻って行く。
彼女は心配そうに私の方を振り返っていたけど、また男に肩を抱かれると諦めたように歩き出した。
二人の姿が見えなくなっても私の足は固まったように其処から動けなかった。