第4章 君の存在~藤堂平助編~
「誰なのか聞いてもいい?」
志信の真剣な眼差しに、俺はちゃんと応えてやりたいと思った。
「新選組が預かってる娘だよ。」
「ふうん。……それで、平助はその娘が好きなんだね。」
その言葉に俺が首を傾げると、志信は不思議そうな顔をする。
「………違うの?」
「いや……良く分かんねえや。好き……なのかな?
好きって言うのかな?
ただ……有希の事、忘れちまいたいのに…忘れられねえ。」
志信は納得出来ないというように俺を問い詰めた。
「決着は着けられないの?
駄目元でも想いを告げてみるとか、
その娘の気持ちを確かめてみるとか……。」
「そう言う事じゃないんだよ。何か……上手く言えねえけど……」
「だって、それじゃあ何時までたっても
平助が苦しいままじゃない。
平助は前に進もうと思わないの?」
「いいんだ。俺はこのままで。」
「でもっ………」
「いいんだよ。」
俺の強い口調に志信は怖じ気付いたように黙り込んだ。
「もう帰ろうぜ。遅くなっちまう。」
そう言って歩き出した俺の後を志信がとぼとぼと着いてくる。
その覚束無い足取りが心配になって
「…ほら。」
俺が振り向いて手を差し出すと、志信は少し躊躇してからそっと手を重ねてきた。
その後は二人共、一言も話さず手を繋いだまま屯所までゆっくりと歩いた。