第4章 君の存在~藤堂平助編~
「危ねえ!」
俺は手を伸ばし志信の身体を支えると、志信も倒れ込んで来て抱き抱えるような形になる。
「だから、ちゃんと歩けって言ったろ。お前は……」
言い終わらない内に志信の唇が俺の唇を塞いだ。
「…………ん」
志信の唇が微かに震えている。
引き寄せようと志信の腰に回しかけた手を、俺は何とか押し留めて拳を握った。
暫くそのままで居たけど俺が何も反応しない事に焦れたのか、また志信の方から離れていく。
「私………平助が好き。」
「…………………………」
「何も言ってくれないんだね。」
「……ごめん。」
「謝らないでよ。……余計惨めになるじゃない。」
「…………………ごめん。」
「だからっ………」
悲しそうに俺を見つめた志信の目が伏せられる。
俺は思い切り抱き締めてやりたい衝動を抑えるのに必死だった。
「有希さん……って人が好きなの?」
志信の口から有希の名前が出た事に俺は心底驚いて、つい志信を激しく問い詰めるような口調になってしまう。
「お前っ……どうして、名前………」
そんな俺の態度を見て、志信は諦めたように笑った。
「やっぱりそうなんだ。この前、平助が寝言で呼んでた。
有希……って。」
「………そっか。」
もう二度と見られない有希の笑顔を俺は良く夢で見る。
俺は夢の中でもいつも有希に謝ってて………そして、目が覚めてからもまた心の中で謝り続けてる。