第2章 鬼ヶ里
「女はな、愛でて育てるもんや、華のように庇護するもんや。それをあのバカ、怠りおった」
ぎらりと細められた目はまるで獣のように鋭く、獣のように血走った目をした。
神無はビクリと身をすくめる。少しでも光晴から離れようとドアへ寄りかかり、震える手をなんとか抑え、手探りでドアのノブを探る。
車の外は高速道路。子供でも分かる、このまま開けてしまえば自分の身はただじゃ済まないということが。
だが、そんなの構ってはいられない。
この男から1分1秒でも早く離れたい。そんな思いで頭の中はいっぱいだった。
はっと、ドアのガラスに移る葉月を見る。
彼女は話を聞いていなかったらしく、その視線は外に向けられたままだった。
「葉月!逃げて!!」
その声に反応して、葉月は神無を見る。
そして神無の手元を見て自分もまた、ドアを手探りで探し始めた。
この男も同じ。
あいつらと同じ。
あのギラついた目で私の心をズタズタに、ボロボロにする。
「すまん!!」
ガタガタと震え、今にも道路に身を投げ出しそうな少女二人に気づいた光晴は、すまん、と、ひたすら謝り続けた。
「これまでその刻印のせいでひどい目会ってきたんやった」
必死で二人を押さえつける。
「もう大丈夫やから。もう怖い思いなんてせんでええ。俺はあんたらを守る庇護翼や。危害は加えん。」
そこまで言って彼は一度言葉を止めた。
「だから俺の名を呼び。俺と高槻(たかつき)、水羽(みなは)はあんたらを守るために十六年前からあんたらの傍に添うとらんといかんかった」