第2章 鬼ヶ里
ついて行くべきではない。誰もが口を揃えてそう言うだろう。だが、二人は車に乗り込んだ。
後部座席に光晴、神無、葉月が手狭に乗っている。
窓の外に流れる風景をただただ無表情で見つめる。
母親は何も言わなかった。
娘二人が得体の知れない男に連れ去られそうだったというのに。昔からそうだった。
学校で問題を起こした時だってそうだ。彼女は仕事が忙しいからなど、適当な理由をつけて、学校に来ようとしなかった。
彼女にとって娘はどうでもいい存在だった。
そして今きっと清々しているだろう。
邪魔な存在が消えて。
「なあ、神無ちゃん、葉月ちゃん」
光晴が流れる外の風景を眺めている少女二人に話しかける。
「怖ないん?」
二人に目を配らせる。
「どこに連れていくんやとか、華鬼は誰やとか、自分はどうなるんや、とかそういう質問ないん?」
すると神無は不思議そうに首をかしげ、どうして…?と光晴に言う。
「私、そう聞いたほうがいい?」
光晴は言葉に詰まる。
「――いや、いや、すまん。俺が連れてきといて、そんなん言うのおかしいな」
彼は車の背もたれに体を倒し深い息を吐く。
「最低やで、華鬼。なんでこんなんなるまでほっとくをじゃ。十六年間も、なんで助けもよこさず見捨ててぃたんじゃ。しかも…」
双子だったなんて状況も知らずに。
自分で選んでおきながら、なぜ今まで一度たりともその姿を見に行きもせず、手を差し伸べることもせず放っておいたのだ。