第2章 鬼ヶ里
「俺、士都麻(しづま)光晴(みつあき)っていうもんです。朝霧さんを迎えに来ましたってあれ?」
目の前の男、士都麻光晴と名乗った男は挨拶をしたとたん、なぜか首をかしげ、神無に疑問を投げかけた。
「華鬼(かき)の匂いが薄いやと…」
鼻をスンスンと動かしボソッと呟いた。
光晴は少し考え込むと、ちょっと堪忍な、と言うと、神無に手を伸ばす。
神無は長年の癖で身をビクつかせ、護身の体制をとる。
すると光晴は伸ばした手を引っ込め、頭を下げた。
「すまん、こうさせたのは俺らのせいや。でも、安心して、君の思ってるような事はせえへんから」
そう言う光晴にいつもの警笛が鳴らない事に気がつく。
神無はこれまで自分の身に危険が訪れると、頭の中で警笛が鳴る。いつも、この警笛のお陰でまだ、身を守って来れた。
神無の緊張が和らいだのを感じたのか、光晴は再度神無に手を伸ばす。
伸ばされた手は制服の胸元に触れ、生地を少し捲った。
胸元が外気に晒されたのを感じ目を瞑る。
「っ…」
光晴の息を飲む音が聞こえた。
「神無ちゃん……」
その言葉を遮るように神無の背後から足音が聞こえる。
その足音はさっきまで朝ごはんを作っていた葉月だった。
葉月は光晴を見つけると足を止め、その場で立ち尽くしてしまった。
一方光晴は葉月を見つけると眼鏡の奥にある目を大きく見開き、1歩、2歩とアパートの中に足を踏み入れた。
「神無ちゃん、あの子は誰なん?」
消え入るような声で神無に尋ねる。
「私の…双子の姉です…」