第2章 鬼ヶ里
教室に入ると大勢の視線が神無に刺さった。
泥水をかけられたあと、すぐに休み時間の終わりを告げるチャイムが鳴り響く。
彼女たちはそそくさと教室に戻って行ったが神無は一人、カタカタと震えて座っていた。
逃げたい――――
でも―――――
決心して立ち上がる。そして近くにあった水道の蛇口をひねり、口のなかに入った砂と共に邪念を流した。
よし―――――
「朝霧?どうしたんだ?その格好は」
泥だらけの神無がのこのこと帰ってきたことを知り、教室に笑い声がこだまする。たぶん彼女達だろう。
「何でも………、ありません…」
多分担任は知っている。知っていて関わりたくないから放っておいて、またいじめはエスカレートしていく。
神無は鞄にあった体操服を取りだし、ヒソヒソと話が聞こえる間を通ってトイレに向かった。
「……っはぁ……」
荒い呼吸を数回深呼吸をして心を落ち着かせる。
大丈夫――――
個室に入ると、その狭さに安心した。体操服に着替え、足早に保健室へと向かって歩き出す。
「いらっしゃい」
扉を開けると三十代前後の男の優しい声音が神無の心の奥にじんわりと染みた。
「なにかあった?」
いつも、何かあると保健室に駆け込み、心と身体を休ませに来ていた。
コクンと頷くと、大丈夫、と頭を撫でた。
「朝霧には見方がいるから」
その声に涙が溢れた。
一人じゃない、そう思えた。
「さあさあ、落ち着くまでベッドでゆっくり休んでいって」
再び頷き返すと、ゆっくりベッドへ近づき、布団に潜り込んだ。
意識が吸い込まれていく。久しぶりに安眠出来るような気がした。