第2章 鬼ヶ里
ちょっと来て、と言うと乱暴に服の袖を引っ張り、校舎裏へと連れ出された。
その場所は手入れをされていなく、ばらばらに生い茂った雑草が生えた地面。辺りはコンクリートの壁で囲まれている。
そこに放り投げられた神無は尖った石が足に刺さり、眉をひそめる。
その姿を見た少女達は高らかに笑った。
「あんたの顔で諒君を惑わせるわけないよね。どんな手を使ったの?色仕掛け?服の一枚でも脱いだの?」
泥で汚れた神無の服をヒラヒラとさせ、歪んだ笑顔で不満を押しつける。
「あんたみたいなブス、諒君が好きになるわけないの!」
思い切り平手打ちされ、口のなかが切れたのか、口いっぱいに血の鉄臭い味が充満した。
ここで泣いたら終わり。
我慢、しなくちゃ―――
彼女達から様々な言葉を放たれたが神無は必死にこらえ、終始無表情を貫いた。
「なにこいつ。イラつくんだけど」
「ねぇねぇ、もうあれ持ってきちゃおうよ」
休み時間もそろそろ終わりに差し掛かり、焦りだした少女達。それと同時に神無の心に僅かな光が灯った。
これで一旦は終了する―――
そう思った矢先、彼女の希望はいとも簡単に打ち消された。
「汚いドブネズミには泥がお似合いなんだよっ…と!」
目に飛び込んできたのは真っ黒な固まり。それに危機感を感じた体が咄嗟に瞼を閉じ、身を屈めた状態で硬直した。
まもなく、体に感じたのは、全身を叩きつけられたような衝撃と冷たさ。
雨上がりのような土の匂いが鼻につく。
水を吸った制服がやけに重く感じた。