第2章 鬼ヶ里
「カーテン、開けます」
平穏を取り戻した保健室の中に中性的な声が響き渡る。
軽快な音をたて、開かれたカーテンから麗二、そして神無が出てきた。
足や腕にガーゼや包帯をいくつか巻かれた神無は俯いたまま歩き出す。だが、葉月の姿を視界に捉えると、小走りで葉月のもとへ駆け寄り彼女の手をぎゅっと包み込んだ。
「…大丈夫?怪我、してない…?」
神無の問い掛けに数回頷く葉月だったが、神無の痛々しい包帯を見て悲しそうに眉をひそめる。
―――ごめん…一人にさせて、ごめん……
心のなかでひたすら謝り続ける葉月は無意識に、繋いでいた神無の手を強く握り、神無の手が徐々に赤くなっていった。
「葉月?」
神無の呼び声にはっと気がついた葉月は、顔を上げる。
真っ白だった視界が色彩を取り戻し、神無が心配そうにこちらを見ているのがかろうじて分かった。
一瞬、ここが何処なのか、何をしていたのか、分からなくなり、辺りを見渡した。
そのようすを不思議に見守る光晴と水羽と麗二。
だが、一人この状況を理解して俯く少女がいた。
そう、神無は知っていた。
葉月の身に起こったすべての異変を―――
三年前
中学一年生の神無は同じクラスの女子から酷いいじめを受けていた。
ほとんどの理由は妬みからきたもの。
「あんたのせいで諒君に振られたの!責任とってくれる?」
神無の机の周りを四、五人が囲い、他の児童から見えないように神無を隠す。
神無は至って普通の少女だった。
特に美人でもなく、可愛いわけでもない。
普通の、少女だった。
だが皆とは一つ違う所があった。
それは鎖骨の真ん中辺りに花の形をした変わった痣があるということ。
その痣は後に、鬼の刻印と呼ばれる、男を惑わす色香を放つ、特殊な痣だった―――