第2章 鬼ヶ里
ギラギラと照りつける太陽をほどよく遮断し、心地よい光をもたらす白いカーテン。
その下には汚れの一つないベッドが三台ほど並べられている。
そんな真っ白な保健室に少年の声が響いた。
「もういっそ公言しちゃう?これからああいうの増えるよ」
丸椅子に座った水羽は先程の乱闘で汚れたズボンの泥をささっと払いのけ、目の前の男、光晴に尋ねた。
「そら得策やないで。なんせ華鬼は鬼にはめちゃくちゃ評判悪いんじゃ。神無ちゃんボロボロにされてまう」
「時間の問題でしょ。庇護翼が僕ならちょっとは頭働かせるよ」
だといいんやけどとお茶をすすりながら呟く光晴に不満げな視線を水羽は向けた。
それから少しの間、お茶をすする音だけが保健室に響き、静かになった部屋の外から足音が聞こえた。
休み時間中、この保健室に麗二目当てで集まる女子生徒は校内にはたくさんいる。
だが、今日は始業式。ほとんどの生徒は寮や自宅に帰っているはず、ましてや保健室に足音が聞こえるのはおかしい。
光晴と水羽は互いに目を合わせ、ドアに注意を促す。
刻々と迫り来る足音。光晴が生唾をゴクリと音をたて呑み込んだ瞬間、ゆっくりとドアが開かれた。
「葉月ちゃん!?」
ゆっくりと開けられたドアから現れたのは汗で髪の毛が数本顔に張りつけた葉月だった。
その葉月を見た光晴と水羽は葉月であったことの安心感と張りつめた空気が数秒続いた倦怠感でため息をつきながらしゃがみこんだ。
「驚かせんといてやー…。めっちゃ焦ったわ…」
二人してしゃがみこむ姿を見た葉月は何が起こっているのか訳が分からずただただ首を傾げるばかりだった。