第2章 鬼ヶ里
開かない。鍵が掛かっているようだ。普通は内側から鍵を開ける事が出来るが、その鍵穴には特殊な機具のようなものがついていて、触れることさえできない。
「ああ、言い忘れていたが、その鍵は俺専用のもの。この鍵がないと開けられない」
夏服の胸ポケットからじゃらじゃらと音を鳴らし、複数ついている鍵の集まりを取り出す。
そしてニヤリと笑い、葉月に問いかけた。
「開けて欲しいか?」
その問いかけにゆっくりと頷き、響をじっと見つめる。
「ふっ、まあいい。今急ぐ事は無いからな」
スリッパのように履いた上履きを鳴らし、ドアに近づいて数本の鍵をあらゆるところに刺してドアを開けた。
たとえ鍵を持っていても、手順を覚えていないと開けることはできない。次、ここに来たときはここから逃げられないということは確実だろう。
葉月は逃げるように教室を飛び出し、最後に逃がしてくれたお礼として、響に頭を下げた。
そして本来の目的、神無探しを再開しようとする。
廊下の先を見据えて走り出そうとすると後ろから響の呼び止める声が聞こえ、立ち止まって振り返った。
「おい!朝霧神無を探してるんだろ?」
少しばかり小さくなった響に頷き返す。
「保健室に行け、多分そこにいる」
なぜ彼が神無の居場所を分かるのか。そんな疑問が脳を掠めるが、それを問いただす余裕がなく、その疑問を心の奥に飲み込んだ。
それから再度頭を下げ、駆け足で保健室へ向かった。
「また“今夜”な」
葉月の後ろ姿を見ながら口元を緩め、呟いたことを葉月は知る由もないだろう―――