第2章 鬼ヶ里
「…ん………」
目が覚めると、そこには見慣れない天井が広がっていた。縦長の蛍光灯に、少し汚れたあと。天井を横にたどっていくと端にまとめられたカーテンがいくつか見える。そして鼻孔を掠めるのは、埃臭い古びた木と鉄の匂い。
ここは、多分―――
「使われていない教室だよ」
葉月の答えと重なるように部屋に響いたのは一人の男の声。
「気がついたようだな」
寝起きで霞む目を数回擦り、声が聞こえた方を見つめた。
なぜか床の上に寝ていた葉月にその男は座っていた机から下り、近づいてくる。
本能的に後退った葉月に男はにこやかな笑みでさらに近づく。だがその笑みはまるで取って付けたような気味の悪いものだった。
葉月に近づき、立てるか、と手を差し伸べられたが、大きく二回ほど頷きそのまま立ち上がる。
空を掴んだ男の手は虚しくポケットに入った。
「俺、堀川響。これから…よろしくな」
そのあいさつに何か違和感を感じ、ぎこちなく頷き、まじまじと“堀川響”を見つめる。
これは、世に言う美形というものだろう。軽く整えられた眉に、切れ長の瞳、長く伸びた鼻はその美形をより引き立たせている。
たが含みのあるその笑みは葉月の背筋を一瞬で凍らせるほどだった。
全身に鳥肌がたち、警笛がガンガンと頭に響く。
この人…危ない―――!
ここから出なくちゃいけない、そう悟すと響に背を向け、教室を出ようとドアに手をかけた。
「っ!」