第2章 鬼ヶ里
―――息苦しい
―――ここから…逃げたい
授業が終わり、それぞれがグループで集まり、会話をし始める。
そんな中、ある男子生徒の声が耳に入った。
「朝霧さんっていいよな!」
顔を上気させ、こちらをチラチラと見ながら話している。さっきから、授業中に何度もこちらを見ていた男子生徒の一人だった。
「あ、俺もそれ思った。なんつーか、理性保つのに必死!」
「お前、それアウトだろー!」
ゲラゲラと笑いながらまたこちらを向く。
「でもさ、神無ちゃんか葉月ちゃんかって言われると俺は葉月ちゃんなんだよなー。皆は?」
「俺は断然神無ちゃん!色っぽい感じが最高!!」
「いやいや、葉月ちゃんだわ!!なんといってもあの無知な感じが堪らない!」
ひそひそ話しているつもりだろうけれど、そこから少し離れた席でも丸聞こえだった。
神無は向けられた顔の、あの目には見覚えがあった。
今までに何度も見てきたその目。
もうだめ―――
目をぎゅっと閉じ、拳を握りしめる。
握りしめたことで爪が手のひらにじりじりと食い込んだ。この痛さにはもう随分前になれている。
「葉月、ちょっとトイレ行ってくる…」
大きな音を立て、立ち上がった神無に葉月がどこかに不安を感じ取ったのか両手で神無の行動を妨げた。
不安そうな目を向ける葉月に胸が痛くなる。
だが、迷惑をかけたくない、その一心で彼女の手をそっと掴み、自分の手から離す。その行動に驚きを見せる葉月が視線の先に見えた。
「ごめん……今は一人にさせて……」
罪悪感で葉月の顔を見れずに目をそらすように下を向いてしまった。
葉月がうなずく気配がした。
神無は再度心の中で葉月にごめん、と謝ると、後ろを向いた。