第2章 鬼ヶ里
神無を探して何分たっただろうか。
静かな廊下に、葉月、一人の足音が響く。
額から流れ落ちる汗によって髪の毛が少し湿ってきたのが分かる。
神無が好みそうなあらゆるところをくまなく探し、特にトイレは、校内すべてを見て回った。
万が一を考え、保健室に寄ったが、神無どころか先生までいない始末。
負担運動をしない葉月は、もう体力の底を尽き始め、たまに肩を大きく上下させ、立ち止まっていた。
ふと、目線をあげると、ちょうど最上階の階段に来ていることが分かった。
ここは一年生はあまり、いや、ほとんど、この最上階を使わない。
元々、今の二年生にあたる、去年の一年生はこの一番上の階を使っていた。
だが、今年の一年生は去年の一年生よりも生徒数がはるかに多く、最上階では教室が足りなかった。
そこで、緊急措置として、教室が多い一つ下の階を一年生、教室が少し少ない最上階を二年生がもう一度、使用している。
葉月自身、初めてこの場所に来た。
長い廊下が葉月を冷たく突き放すように感じる。
怖さを押し殺し、一歩踏み出す。
嫌な雰囲気。
だんだん大きく、いつもの警笛が頭に鳴り響いてくる。
ここ、早く出ないと―――っ!
殺気のようなものについに耐えられなくなり、体を翻し、階段を目指して走り出した。
過ぎ行く廊下が、来たときより長く感じる。
「…っ…!」
突然、誰かの背中が葉月の顔いっぱいに広がる。
その背中からは微かに女性の香水の香りが漂い、手触りのいい学校指定のシャツとほどよく調和している。
悪い意味で。
「ごっ…、ごめんなさい…っ」
か細い声でその奇妙な雰囲気を醸し出す背中に呼びかける。
葉月の声を聞いて、喉をならし、何か企んでいるような含み笑いをしたのを葉月は見逃さなかった。
だめだ……、この人、危ない―――
咄嗟に危機感を感じ、逃げ出そうと、後ろへ振り返り、震える足で一歩踏み出す。
その瞬間、底知れぬ暗闇に腕を強引に引っ張られ、世界が暗転した。