第2章 鬼ヶ里
神無が教室を出て10分以上がたった。
彼女は、トイレに行くと言って、教室を出て行ったきり一度も教室に戻って来ない。
10分前、突然立ち上がった彼女は、ずいぶん顔を真っ青に染めて教室を出ようとした。
しかも、いつものように、自分の体を傷つけながら。
神無は、心が不安定な時や、問題を一人で抱え込む時は、いつもこのような自傷行為を無意識でやる癖があった。そんなとき、葉月はどうすることも出来ずに、ただ、度が過ぎる行為をしないか見守るだけだった。
神無を守ってあげたい。
幸せになってほしい。
その行為が、出来なくなるくらいに。
前の時間中、神無はずっと下を向いて授業を受けていた。長い髪の毛で自分を隠すようにしながら。
家で見ていた神無がそんな顔色をしていた事が多々あった。
だから葉月は両手で彼女の手を掴み、抵抗する。
だか、神無は優しく、葉月の両手を振り払い、葉月に顔を向けた。
「ごめん……今は一人にさせて……」
バツが悪そうにまた下を向く。
神無は葉月が渋々うなずくのを確認すると、おぼつかない足取りで廊下へ向かって行った。
時間が経つにつれ、葉月の周りを囲っていた物好きな生徒はぞろぞろといなくなり、一人になった葉月は静かに本を読んでいた。
少しすると、休み時間の終わりを告げるチャイムが鳴った。
休み時間中、他のクラスや、廊下で遊んでいた者が軽快な足音を鳴らし、急いで戻ってくる。
しかし、葉月の隣の席の神無が来る気配がまるでなかった。原因はさっきのことだろうか。やはり、無理やりでも止めておくべきだった。
心配になった葉月は神無を探しに行こうと心に決めた。
だが、決心したは良いものの、授業が始まってしまっていることを思い出す。
教卓を見ると、幸い先生は来ていないようだった。
よし、今なら行ける。
椅子を大きく鳴らし、廊下に駆け出した。
神無――――っ!
お願い、無事でいて――――…