第2章 鬼ヶ里
彼女が放ったその言葉は、ある意味、皆の中では禁句となっていた言葉だったようだ。
皆が一斉に口をつぐみ、えもいわれぬ空気になる。
「あ、俺も気になってた」
話の輪の外にいたはずの男子生徒が手を上げて、輪の中にに入ってくる。
「結婚ってマジで?」
その言葉を合図として一斉に話し始める。
「冗談でしょ?」
「だよな〜、高校生で結婚って普通しないって」
「けど始業式で言ったんだよ?」
木藤先輩、そういうことふざけて言うタイプじゃないよ
ある女子生徒の言葉に、確かに―、と呟く周りの生徒。
「じゃあ、今日結婚式?てか、相手は誰だよ?」
「副会長の須澤先輩と付き合ってるんじゃなかったっけ?」
「え?書記の大谷先輩じゃね?」
葉月の頭の上で様々な女の名前が飛び交う。
来る者を拒まず、去る者を追わず。この性格が故、彼のもとに集まる女性はあとを絶たない。
「けど、さ」
少年が首を傾げた。
「先輩が言ってただろ、花嫁が届いたって」
「ああ、言ってたな、確か」
怪訝な顔で言い放つ。
「なんかそれって、いやな言い方。まるで――」
―――――荷物みたい。
遠くの方から中性的な男の子の声が響いた。
「水羽――?」
名前を呼ばれたその少年は女の葉月から見ても、なんとも可憐な容姿で、例え、少女の格好をして街中を歩いたとしても、違和感はないだろう。
長い睫毛に人形のように大きな瞳。控えめな鼻と唇。実年齢より幼く見える顔のパーツは、中学生に間違えられることが多々ある。
そんな彼の口から放った言葉はその容姿とは想像できない、毒気のある言葉だった。
「なんかさぁ、ムカつくよね、木藤華鬼」
「…は?」
「本当ムカつく。庇護翼なめやがって、偉そうにふんぞりかえってんじゃねーよって感じ」
「は!?」
水羽の視線が神無と葉月を捉える。
「後悔させてやる。三翼の力ナメてんじゃねーよ、華鬼。」
愛嬌のある天使の微笑みの裏に悪魔を宿し、呟いた―――