第2章 鬼ヶ里
鬼ヶ里高校の制服に着替えた神無と葉月は真新しい生地の匂いに包まれてる。特に葉月は初めて着る制服に僅かながら心を踊らせていたのが神無には分かった。
担任に促されるまま、見慣れない廊下を二人で歩き、いつの間にかこれから過ごすであろう教室の前に立っていた。
期待と不安が入り交じった葉月は神無の手を無意識に握る。
「葉月?」
神無の呼び声にはっとした彼女は手を引っ込めて、ごめん…、と蚊の鳴くような声で呟く。
そのようすを見て、心配になった神無が大丈夫と言うように、引っ込めた手を握り返した。
『じゃあ、入ってきて』
ドアの中から担任の声が響き、意を決した神無が教室のドアを開ける。
葉月はそのあとに続き、少しうつむきながら教室に足を踏み入れた。
「えーと、転校生だ。朝霧神無さんと、葉月さんだ。みんな、仲良くするように」
テンションが高めの担任は、このクラスのムードメーカーのよう。
「さ、席に座って。授業始まるよ」
担任が指を指したその先にちょうど2席、空席があった。
そそくさと席に座ると、隣の席の女の子が葉月に話しかけてきた。
「朝霧さんはどの高校から来たの?」
葉月は言葉に詰まる。この場合、行ってなかったと答えるのはリスクがあると葉月でも分かる。
この学園は、1クラスが平均で20人で10クラスある。それなり、いや、平均以上の設備が整っており、ここへ入学するにはそれほどの財力、知力、体力が備わっていないといけない。
あたふたしている葉月をよそに、また違う質問が投げ掛けられる。
だが、その質問にも葉月はまたあたふたし出し、また違う質問が投げ掛けられる。それの繰り返しを10分ほど行っていると、一人の少女が葉月周りを囲っていた級友の輪の中に強引に入ってきた。
「ねえ――それよりさ、始業式の木藤先輩の言葉なんだけど――」