• テキストサイズ

ゲームはお好き?

第28章 別れと分かれ


仁王側

あの日、氷月を抱こうと思ったが

腹部の痛々しい傷を見てどうしても止まってしまう俺が居った

あれを見るだけで俺の胸は締め付けられ息苦しさを感じる

長袖の下に隠れておる右腕の傷も一緒じゃ

俺が不甲斐ないせいで負わせた傷でもある

あれが俺の戒めにもなるとはな

抱こうと思うとあれが俺の邪魔をする

熱くなる体を急激に冷やしていく

最後にそれをなぞり形を目に焼き付けると

俺は不安になり、そのまま氷月の胸へ倒れこむ

この傷の手当てが遅かったら、この傷から溢れ出る血が

そんな事を考えて不安に駆られそうになり

氷月は俺の心情を読み取ってか慰めてくれる

胸から聞こえる氷月の心音と呼吸音は今の物であり

俺の頭を撫でる手つきは氷月の物であり

俺に話しかけてくる言葉は氷月の物であり

そんな些細な事でも俺を安心させるには十分すぎた

これらが無くなった今後の生活が出来るのか

今度はそれらが不安になって来る

『雅治、大丈夫だよ。皆がいるから』

仁「氷月...」

3月の中旬

俺は氷月を見送るために空港に着ておった

弟は試合で行けず、姉貴は国内の仕事

両親の仕事も忙しく

俺1人だけで氷月を見送る

氷月と一緒に向こうへ行く3人の人達を今は待っておる所じゃ

皆には言っとらん

氷月が寂しくなり、離れられなくなるかもしれないからと

前日にお別れ会を開いたんじゃ

『雅治には大事な仲間がいるから大丈夫だよ』

仁「...そんな事言わんでくれ」

『でも、そう言わないと離してくれないでしょ?』

俺の手は氷月の手を包み込んでおる

しっかりと逃げられんように、俺がこの場から逃げれんように

仁「離したら、また会えるんか?」

『今日の雅治は弱気だね。大丈夫、そのために行って帰って来るんだから』

仁「すまん、弱気な事を言ったな」

『いいよ、それだけ手放したくないんでしょ?』

仁「そこまでわかっておってのう」

『...クス、やっと笑ってくれたね』

仁「......」

『今日からずっと怖い顔をしていたからね。ありがと、最後に笑顔を見せてくれて』

仁「最後って言うな」

『ごめん、でも、ちゃんと帰って来るからね』
/ 321ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp