第23章 新しい事
水島「大丈夫、絶対に氷月も走れるからね」
そう言って私の肩に置かれた手からは勇気が込められてた
『だといいな』
水島「いいなじゃな!絶対っ!」
『はいはい、ほら試合を見なきゃ』
水島「うん!」
肩から手をどけて目の前の試合を見る
2人の顔に疲れが出てきている
無理もない
多くの視線と熱気と「優勝」と言う2文字を背負っている2人だから
むしろ疲れない方がどうにかしている
皆は食い入るように無意識に前に一歩出ていた
私は狭くなった視界から雅治を見つめる
好きな人が一生懸命に好きな事をしている
それを見て悪く思う事は私にはない
逆に「もっと私だけを見て」って言う人がいるかもしれない
もしそんな人が私の前に現れたら
私はその人の事を嫌いになる
自己中心的な思考の持ち主はいずれ自らを滅ぼすからだ
そんなのに巻き込まれたくないからね
え?腹の中が真っ黒だって?
私がいつ白かった時期があった?
......記憶喪失はノーカウントだからね、言っとくけど
「30-40、アドバンテージレシーバー!」
審判の声が聞こえれば目の前に集中する
相手の、周介のサーブを待っている雅治は真剣な表情になっている
周介には悪いけど、このまま貰っていくね
周介から放たれたサーブはこれまでにないくらいの鋭さを持っていた
雅治は驚きの表情をしながらもボールを打ち返す
イリュージョンは既に解けている
だけど、此処までボールに食らいつくのが本物の雅治の気持ちが伝わってくる
今まで自分の感情を表に出さない事をしていた雅治の試合
この試合には雅治が出ている
これが彼の本気の試合なんだと呑気な事を思っていると
スマッシュチャンスがやってきた
雅治はそれを打たずに、レシーブを返す
周介の技にはスマッシュを利用したポイントをもぎ取る物があるからだ
それを警戒した冷静な判断は戻ってきているようだ
雅治にとって最後の1球にしたい思いが伝わってくる
そこから焦りが少しずつ戻ってきている
『雅治...』
気づけば小さく呟いていた
好きな人の名前を、誰にも気づかれないように
本当は立って応援したい
焦りが先に表に現れたのは周介の方だった
レシーブの威力が少なくバランスが少しだけ崩れている