第21章 夕方
優しい声音なのにとても強く感じた
威圧ではないが強く聞かれた
『...信号機を見て、少しフラッシュバックがあって...』
仁「信号機?」
『はい、青から黄色に変わってさらに赤になった瞬間を見て』
仁「......」
『何処かの部屋に立っていて、真っ青な満月が真っ赤に変わって行くのを思い出しました。その後に誰かの声が聞こえたんです』
仁「誰かって、誰じゃ?」
『わかりません。声は私と似ているけど少しだけ低く、暗く冷たく重い人を突き放すような感じでした』
仁「...そうか」
思い出すだけなのに心拍数が上がって
右手を胸の上に乗せてしまう、不安が私を囲んでいる
彼にとっては大事な時期なのに、私のせいで此処に来る時間が早くなってしまった
私がしっかりしていれば迷惑を掛けなければ
仁「早いな」
『え?』
私の右手の上には彼の手が乗せられていた
乗せられていたには表現が曖昧で、少し強く抑えられているような感じであった
そこから自分の鼓動が今までになくハッキリと手に伝わってくる
仁「もう思い出すんじゃなか、怖いんじゃろ?」
『はい、でも』
仁「焦ったらいかん。俺達も待っておるから心配せんでもよか」
『......』
仁「明日からは電話してきんしゃい。この階にも電話が出来る所がある。これはお前さんが使っておった携帯じゃ」
彼から渡された携帯電話は懐かしい物であった
不思議と不安が消えて行く、彼との連絡手段があるからだろうか
仁「いいか?何か思い出して不安になった時は遠慮せずに電話をするんじゃ。俺が試合中の時は奈々に携帯を持っていさせるから心配せずにするんじゃぞ、ええな?」
『...はい』
仁「良い子じゃ」
そう言って頭を撫でてくれた大きく暖かい手
気持ちが安らぎ安心を覚えてしまう
仁「少しええか?」
『はい?』
仁王君が私の背に腕を忍ばせて私を起き上がらせると
私の視界は黄色くなった
そこからドクドクと音が聞こえ上を見上げると
銀色の小さくて可愛い尻尾が見えた
背中に回された彼の腕は少しだけ震えており
それでもしっかりと私を包んでいた
夏の暑い時期、例えクーラーが入っていても暑いはずなのに
その行為は暖かった
彼の香水の香りが鼻を擽り、彼の命が耳を触って行く
仁「すまんな」