第21章 夕方
少し早いが皆は明日の準備があると帰って行った
仁王君だけが残ってくれる
夕日が沈み始めていても彼はいつも最後まで残ってくれる
丸井君や切原くんは仁王君の事を「詐欺師」と呼んでいるが
こんな優しい人が「詐欺師」なんて呼ばれるのは心苦しい
もしかしたか、この優しさも嘘なんじゃないかって最近思い始めてしまった
私は失礼な人だ、此処まで優しくしれくれた人が人の言葉で
彼の人物像が狂ってしまうなんて
仁「どうしたんじゃ?」
『あ、いえ』
仁「...言えん事か?」
心配そうに彼が私の顔を覗いてくるから
私はその表情を見たくないので話してしまう
『丸井君や切原君に仁王君のテニスのプレイスタイル?を聞いた事がありまして』
仁「そこで俺が「詐欺師」とでも言われたんじゃろ?」
『はい。そこで今までの優しさが嘘なんかじゃないかと思ってしまう失礼きまわりない考えを持ち始めてしまったのです。ごめんなさい』
仁「別に謝らんでもよか。実際そうやって呼ばれてるしのう」
『けど...』
仁「大丈夫じゃ。俺がお前さんを思う気持ちに嘘はなか。例えお前さんに嘘を付いてもすぐにわかるじゃろ?」
『?そうですか?』
仁「無自覚は恐ろしいナリ」
少し驚いた表情を見せた後に喉の奥から笑った
私は何も知らないのでポツンと取り残された感じであった
自然と私の左手は彼の体温を求めて自ら絡めに行く
彼はそれを拒む素振りも無ければ握り返してくれる
前にもこんな事があったのじゃないかと思う
手を繋いでいるときはどうしても恥ずかしく
彼から視線を外してしまい外の景色を見てしまう
夕日が真っ赤に染まって病室を照らしている
だけどそこにも不思議な事はあった
この夕日が赤くなり始めた頃、私は何処か違うような感じがしてしまう
この感覚に陥ったのはあの歪んだ笑みを零した女性を見てからだ
それから夕日を見て、赤くなる病室を見ると自然と体が強張り小刻み震えだす
仁「氷月」
『はい』
仁王君に名前を呼ばれるとそんな思考回路から抜け出す事ができ
夕日から視線を外すと先程まで考えていた事を忘れてしまう
仁「俺は此処におる。何処にも行かんでくれ」
『?、わかっています。一緒に学校にいきましょう』
仁「おん、勿論じゃ」
時々仁王君は訳のわからない事を言ってくる