第14章 6つ目
仁王側
俺の腕から逃げるようにして向こうへ立つ氷月
自分の実に起きた事に誰よりも早く理解し、誰よりも早く崩れてしまった
『私に起きた全ての事を思い出した。だから君達と一緒に此処から出る頃は出来ない』
淡々と告げられる言葉は鋼鉄のように固く、吹雪のように冷たい
『首に窯の先が刺さったって言ったよね?』
真「それが...」
『私はあのまま死んだんだよ。首をはねられて、ね』
ジャ「なら...?」
『私は此処で首をはねられて死んだ。はねた本人は「死神」と言うヤツだった。実里の願いに「死神」が動かされた』
越「死神」
『「死神」が気付いた時には私の首は動体から離れていた。哀れに思い、自分の犯した罪を償うために現実世界へと魂だけ持ち去り、新たに「無」から私の体を生み出した』
「「!!」」
『容姿を似せる事なんて容易かった。窯で刈り取った記憶を魂に込めて感情を戻す。現実世界にいた神に私が消えた場所に戻した』
大「そ、それだとこちらに来てからのその右目はどうしたんだい?」
『達也、汐音、誠二が臨んだのは「白川氷月」と言う現実世界の器に対して奪ったもの。対して実里は「白川氷月」と言う魂の入れ物全てを奪いたかった』
柳「だからこの世界に踏み込んだ瞬間、「白川氷月」と言う本体の右目が奪われ、今まで機能していなかったお前の右目が機能と取り戻したと言う事か」
『さすが蓮二だね。話が早くて助かるよ』
さして長くもない前髪は氷月の瞳を隠す
『ありえない話なのは自分が一番わかっている事。だけど、これ以外に思い出した事もなければ「神様」の力なんてわかったもんじゃない』
顔を下に向けて苦しそうに、悲しそうに言う氷月
『でも、これが真実なんだよ。私は死んだ。神から、無から生まれた人の子ですらもない生き物、いや亡霊さ』
全ての話を聞き終えた俺達は氷月になんて言葉を掛ければいいのかわからんかった
下手な事を言えば氷月は俺達を拒絶する
『アイツらは私を裏切った。今度は私が裏切った。その罪を償うために私は君達を現実世界まで導く事を約束するよ』
儚く微笑んだその瞳は完全に濁り、目の前が見えているかも不安じゃった
コイツの精神は崩壊し始めているんじゃ