第12章 4つ目
仁「変装している時の罪悪感、じゃな」
水島「え?」
雅治の言葉に耳を疑った
雅治の口から罪悪感が出るなんて思ってもいなかった事だから
仁「奈々、お前さん失礼な事を思っとらんか?」
水島「ソ、ソンナコトナイヨー」
仁「片言なんじゃが」
呆れた顔をして雅治は扉の前に立っている愛しい存在を見守る
近づいてはいけないような気がして、私達はその場から動けない
前進する事も後退する事も許されないような感じになっている
『君は変装する相手の気持ちを考えて行動しているために、あの時のような事が起こるのではないかと思っているね?』
「......」
『それは当たり前の考えなんだよ』
「当たり前?」
『私の友達にも変装が得意な詐欺師がいてね。ソイツは君よりも悪質なんだよ。ソイツはいつも無断で相手に成りすまして勝手に頼み事を聞いたり、頼まれたりしている』
「......」
仁「言ってくれるのう...」
うーん、なんだか雅治が可哀想に見えてきた
『その点、君はちゃんと罪悪感を持っているでしょ?ソイツはたちが悪いからそんな物なんて持ち合わせていないよ。持っていたとしても言葉や行動に出さないだけで』
「それで?」
『君は違う。しっかりと罪悪感を持ちながらも行動している。だから感情が豊なんだよ。変装は押し殺していしまうから、ね?』
氷月の言っている言葉は相手から見れば剣の様な鋭さを隠している
けど、そんな優しい声で言われたらその剣を避ける事も守る事も出来ない
『君はまだ大丈夫。しっかりと本当の相手の気持ちを理解しているよ』
「私が?」
『うん』
氷月はズボンのポケットを漁ると1枚の紙きれを取り出した
『これは君を導く物。大丈夫、此処から出られれば次の人生を歩む事が出来る。アイツから解放してあげるよ』
水島「氷月...」
持っていた紙切れが白く輝きだし、その紙切れを女子生徒に向かって投げた
女子生徒の手前で落ちた紙切れは今でも輝いている
『触れる触れないは好きにして、それでも私を殺したいのならば場所を変えよう』
鋭く優しい言葉
場所を変えようと言ったのは私達の安全のため
それをわかっていても、私は氷月に素直な感謝を言う事は出来ないであろう