第11章 3つ目
「俺、バイオリンを弾いてたんだ」
水島「へー、そうなんだ!」
ジャ「何してんだ、アイツ」
不「話し合いじゃない?」
切「うう、奈々先輩...」
合唱用の段に腰掛けて影さんとのお喋り中
なんだか悩み相談所みたい♪
他の皆はピアノの周辺で固まって何かを話している
水島「私はピアノだけかな?出来るのは」
「そうなの?」
水島「うん」
この影さん、良い人っぽい
バイオリンを弾くための指を骨折させられた後
吹奏楽部の先輩から殺されたとの事
当時は高校1年生だったんだって
「俺、その時さ、体調の悪いじいちゃんが家に1人でいたんだ」
水島「両親や兄弟は?」
「親は共働きで朝早くから夜遅くまで帰ってこないし、俺一人っ子なんだ」
水島「一人っ子って寂しいよね」
「え」
水島「私も一人っ子なんだ」
精一杯微笑んで影さんに顔を向ける
やっぱり表情はわからない、真っ黒だから
水島「私の友達にね優しい詐欺師さんがいるんだ」
「え、詐欺師?」
水島「その人ね、家族のために学校自体を1週間休んだ事があったんだよ」
「1週間も!?詐欺師さんが」
水島「うん、大好きな部活も休んだんだ。君みたいに何も言わずにね」
「......」
水島「私だったら、部活と家族は家族を取るなー」
「絶対に?」
水島「うん、だってまだ何にも教わってないからね」
「じゃあ、俺は間違ってなかったんだ...」
水島「そうだね。でも、部活の子にちゃんと話しておく事が大切だよ。その日は遅れるからって家族に伝えてね」
「そう、なんだ」
影さんの声が優しくなっていく
影さんは私に手を伸ばす
「これ、君達の探し物でしょ?」
そう言って渡して来た赤いビー玉
水島「いいの?」
「うん。だから、僕と1曲合わせてくれない?楽譜は置いてあるから」
水島「うん!演奏しよう!」
影さんからビー玉を受け取ってからポケットにしまう
水島「皆、聞いててね!」
ピアノの前に座って鍵盤を確かめる
影さんはピアノの前でバイオリンを構え
私達の音楽が始まった
その曲は一生の思い出になるだろう