第3章 笑って蓋をする
「え、携帯もってない?」
「はい。買うほどでもないなと思いまして」
しれっとした様子で言い放ったのは、昨日から俺の恋人となったなまえ。現代人らしからぬ発言に俺は目の前がくらくらした。
朝練終了後、俺はかわいい恋人のためにわざわざ1年の教室まで来ていた。だって連絡がとれないんだこいつ。そして携帯も持っていないという。なんなのこの子。ほんとに平成生まれかよ。
「俺と連絡とれないじゃん!ていうか不便でしょ!」
「用があるなら家に電話してください」
「家かよ!ハードルたかっ!」
意味がわからない。もう1度言う。意味が、わからない。学校にいる間は全くお互いのことを知るすべがない。学年も時間割も部活も何もかもちがうというのに!いや、俺はこいつと連絡がとりたいわけではないんだけど。やっぱりコミュニケーションの基本だからさ。
「買ったほうがいいよ、なまえちゃん」
「まぁ。気が向いたら」
「…一生向かなそう」
呆れながらも、彼女らしいなと思ってしまう。こういう無頓着なところ、飛雄に似てるんだよなぁ。むかつくことに。俺は深呼吸して、心を落ち着かせた。まずは一緒に過ごす時間を確保するのだ。そうしなくては、この子を攻略するなんて無理だろう。
「じゃあ、お昼一緒に食べようよ」
「まぁ、いいですよ」
「こないだのところで、待ち合わせしよう」
「わかりました」となまえが素直にうなづいた。…ニコリともしない。別にいいけど。俺はなんとか約束をとりつけ、自分の教室に戻った。