第2章 走りはじめる
「おっせえんだよ!クソ川!!」
部室にはいってすぐに岩ちゃんからの喝が飛んできた。俺はさっきのなまえとのやり取りのせいでスッキリしないまま、ロッカーに手をかける。何も言い返さない俺を不思議に感じたのか、岩ちゃんが「おい」と声をかけてきた。
「どうした」
「あのさー、岩ちゃんさー、俺、彼女できた」
「はぁ!?」
「中学の、マネージャー。覚えてる?なまえって子」
「あー、いたいた」
俺は着替えながらも、岩ちゃんに一部始終を話した。なぜかこの高校に来ていることから、俺が飛雄への当てつけのつもりで彼女に告白したところまで。話が長かったせいで途中から生返事だったが、体育館へ移動しながらやっと感想を述べた。
「おまえ、本当に性格わりいな」
「ひどいよ、岩ちゃん。でも否定はしない!」
「…もう影山にフラれたんじゃねえの。だから別々の高校いったんだろ」
あーそれは、あるかも。そんで忘れようとして俺と付き合うとか?それこそ飛雄への当てつけか。うーん、もしかして俺と同じ目的ってことかな。
なまえが俺の告白を受けた理由をあれこれ考えてみたが、そもそも大して気にすることもないかと気付く。俺だって、ただの気まぐれだし。
「よーし、次に飛雄と会うまでになまえちゃんメロメロにして、嫌がらせしよう」
恋人ではないにしろ、大事な幼馴染みが及川さんに取られたらさぞ嫌だろう。にやりと笑みをこぼすと、岩ちゃんからはっきりとした軽蔑の目で見られた。…いいもんね、別に。