第2章 走りはじめる
「実は中学のときから、いいなって思ってた。ほら、飛雄がいたから、言えなかったけどさ」
「はぁ…」
「ね、俺と付き合ってよ。突然で悪いけど」
我ながらなんて雑な告白だ。思ってもないことがスラスラ口から出てきた。おまけに屈託のない笑みまで向けてみたが、なまえは照れるどころかどんどん眉間に皺がよっていく。あ、さすがに胡散臭いかな。彼女を好きな素振りなんて一度もみせたことないし。
まぁそんなすぐに俺のものになっても困るから、フラれるのは想定内。なんだかんだでアドレスと番号を手に入れれば、あとはどうにでもなるだろう。
「…私、及川さんのこと好きでも嫌いでもないですよ」
「だろうね。別に、今はそれでもいいよ」
「そうですか。なら、いいですよ」
「…へ?」
「付き合っても、いいですよ」
思わず、唖然としてしまった。
言ったのは俺なのに。まさかオッケーされるとは思わなかった。俺は頭の中でゆっくり反芻すると、おそるおそる「ほんとに?」と聞き返した。なまえは静かにうなづく。
まぁ、普通に考えれば俺がフラれるなんてありえないことなんだけどさ。なまえは、普通じゃないし、好きな人がいるわけだし、これはちょっとびっくりだ。
「そ、そっか。ありがとう」
「じゃあ、もう行きます。」
あっさり帰っていく彼女の後ろ姿を、俺はぼんやり眺めた。なんだこの謎の敗北感…