第11章 ぶつかってはじけた
2階のギャラリーには、思ったよりも観客が集まっていた。
これなら簡単に見つかることもないだろう。いや、別に見つかって不味いことはないんだけれど。
放課後、重たい体を引きずりつつも私がたどり着いてしまったのは体育館だった。汗くさいような埃っぽいような、懐かしい匂いがする。まさに試合中というこのぴりぴりした緊張感を、久しぶりに肌で感じた。
来てしまったからには、見るしかない。
青城コートの後ろに回り込む。万が一及川さんの視界に入ってしまったら、なんとなく気まずかったからだ。しかし見る限り、及川さんはメンバーにいないようだ。足の怪我のせいだろうか。まさか、あの自転車爆走のせいで悪化したとか?一瞬ヒヤリとしたが、真相はわからない。とりあえず目の前のことに集中することにした。
「影山っ」
ふいにあの名前がコートに響く。
当たり前だった。今は試合中で、彼はコートにいるのだから。久しぶりに目に映った幼馴染は、相変わらずボールしか見ていない。無駄のない動き。触れた途端にボールがはじけとび、瞬きした瞬間に、オレンジ頭の男の子が放つ鋭いスパイクへと変化していた。なんだこれは。初めて見た。トスというより、まるでレーザービームみたいだ。
「…なにあれ。すごい」
わ、と歓声が上がる中私も思わず声が出た。
私は一体何を心配してたんだろう。まさか、もう、バレーを辞めちゃったとか?腐ってるとか?とんでもない。あのバレーバカが、そんなやわではないでしょう。
中学のときのことを、ずっと引きずっていた私がバカだったんだな。飛雄はすっかり前を向いて歩いていたというのに。
試合終了のホイッスルが聞こえるまで、私は飛雄を見てた。
髪が伸びたとか、身長も少し大きくなったとか、目の前の試合とはまったく別のことを考えていた。飛雄の世界にもう私はいない。不思議なことにあまり悲しくはない。むしろこの距離感が一番心地よい気さえした。
映画でも見ているかのように、私はただ黙ってその光景を目に焼き付けていた。