第11章 ぶつかってはじけた
「……なまえ?」
さっきまでムービースターのように眺めていた人物が、いつのまにか目の前に立っていた。これはまさに…会いたくないと思っていると会ってしまう法則。
試合も終わって解散を見届けたあと、すぐに帰ればよかった。廊下で人だかりが消えるのをちんたら待っていたら、思い切り遭遇してしまったのだ
本物の飛雄、だ。
なぜ。チームメイトはどうしたの。
面と向かって話すのは、約半年ぶりくらいだろうか。動揺して、「あ、うん」と間抜けな返答をしてしまった。卒業式ですらまともに話せなかったのに。
「久しぶり、だな。青城来てたのは知ってたけど。」
「そうなんだ」
「母さんが、寂しがってた。最近顔みせねえって」
あーうん、と生返事。
私も人のことを言えないが、飛雄の表情はさらに読みづらい。けれど、少なくとも私のことを嫌っていたり恨んでる様子はなかった。安心はしたが、安心している自分への自己嫌悪がつのった。
指通りの良さそうな黒髪に、切れ長の目。その力のある瞳からは、いつも逃げられなかった。謝ろう。素直に思った。私、何のために今日、ここにきたのか。
「飛雄、ごめん」
「あ?」
「私、中学のときのこと、ずっと気にしてた。飛雄のこと間違ってるとは思ってなかったのに、最後まで味方でいられなかったこと」
「…そうだったか?」
飛雄がとぼけた顔で、小首を傾げた。
別に私たちには、直接的な何かがあったわけじゃない。でも飛雄を庇うことをせず、傍観者のひとりとして支えられなかった自分を恥じている。今でも、最後の試合を夢に見る。ああなる前に、なにかできなかっただろうか。不穏な空気はいつも感じていたし、心無い言葉を吐く奴だっていたのに、私は飛雄に声をかけることすらしなかった。深入りすることを避けて、手を離したんだ。
飛雄は静かに記憶を辿るように眉根を寄せて、「いや、」と小さく声を出した。
「お前の手を払ったのは俺だったと思う。それにさっき、金田一に会ってな、」
「え、金田一に…」
「そう、便所で。謝ろうとしたら、謝るなって怒られた」
「だからお前も、謝らなくていいだろ」と、彼らしいトンデモ理論を言ってのけた。