第11章 ぶつかってはじけた
試合当日。
なまえの姿はなかった。
といっても俺も先に病院に行ってたから、試合に参加できたのはだいぶ終盤(しかもピンチサーバー)だったが。絶対に来いと言っといてこれでは、もし彼女が来ていても怒られてしまいそうだ。
久しぶりに見る影山飛雄は、やはり相変わらずだった。ふてぶてしいその顔が嫌いだと思った。
認めたくないが、俺やなまえは散々お前に振り回されている。のに、当の本人は素知らぬふりだ。知らない高校で知らない仲間と、勝手にまた青春しようとしている。なかなかにシアワセな奴である。
新しい仲間と、新しい武器を手に入れ、つらい過去なんかなかったみたいに。ほらなまえ、こいつはこういう奴なんだよ。まるで物語の主人公みたいにさ、周りを巻き込みながらむかつくほどのスピードで成長していくんだ。
「整列ー!あざーっしたーー!!」
試合終了のホイッスル。
結果はうちの負け。意外な結果ではあったけど、正直今回の勝敗に興味はない。肝心なことは、影山飛雄はまだしつこくバレーをやっていて、さらにチームメイトに恵まれてしまったという事実だ。クソむかつく話じゃないか。神さまというのは、どこまで天才の味方なのか。
まだ熱気の残るコートの中で、俺は静かに目を瞑った。
胸のどこかでしこりみたいに昨夜の話が凝り固まっている。
もう、やめよう。あいつらに関わるのは。もう知ったこっちゃないのだ。俺の恋人でもないし、友達でもないし。あの2人がどうなろうとも、俺にはまるで関係ない。
「及川さん、足、もう大丈夫なんですね」
気を使った後輩がタオルを手に小走りで近づいてきてくれた。
「うん。遅くなってごめんね。もう大丈夫だから、全部元通りだよ」
そう、元通り、バレーに集中しよう。インターハイでは、この烏野高校は脅威になるだろうからね。
じんわりと滲んだ汗をタオルでぬぐい、反対側に目線を向けた。俺の大キライな後輩の横顔は、少しだけ大人びたようだ。
お前は知らないんだろうな、飛雄。ずっとお前を好きだったやつの存在を。あの馬鹿みたいに不器用な恋を。
可哀想だね。
(俺にはもう、関係ないけど)
ぼーっとしてんなと、岩ちゃんに足蹴にされるのは5秒後のことだ。