第10章 ラストチャンスを願う
「……行くわけない」
及川徹、見慣れた名前がメール画面に現れた。
私はその文面を確認すると、携帯電話を握りしめ独り言をぼやく。たった今別れた人からだ。試合には必ず来い、と彼にしては珍しい短文。行くわけない。行きたくない。会いたくない。
どうして、と私は自分の心に問いかける。
会いたくない、わけではない…。
本当は会ってしまいたい。
飛雄が今どんな学校でどんな仲間とどんなバレーをしているのか、気になってしょうがない。うまくやれているのだろうか。あの頃と変われていないのだろうか。私のことを、嫌っていないだろうか。何もできなかった私のことを。
めまぐるしく廻る思考回路の中、結局なんの答えもでてこない。
「飛雄、」
絞りだした声はどこかに消えた。
後悔なんて何度もした。
高校に向かう後姿を見かけたこともある。声をかけたいと思ったけど、拒絶されるのが怖くて逃げていた。
(遠くから…見るくらいならいいかなぁ。)
来たる練習試合に思いを馳せつつ、私は目を閉じた。
答え、そんなものは決まっていたのかもしれない。これはチャンスだ。いい加減、このこじらせ具合には自分でもうんざりしていたのだから。
ラストチャンスを願う
(20180814)