第9章 サヨナラの手をふる
そもそも、なんで付き合ってたのかふたりともよくわかっていないわけだから。自然と出た台詞だった。ちっぽけなメロドラマみたいにな台詞だと思った。及川さんも、私も、いい加減遊んでる場合じゃない。目を覚まさなくては。
及川さんも当然すぐに首を縦にふるものかと思ったが、意外にも驚いた顔で私を見た。いや、何に驚いてるんだろう。
「なんでそうなんの」
「?、お互い好きじゃないのにこのまま付き合うんですか」
ぐ、と言葉に詰まった及川さんだが、すぐに「お前は簡単に、切り捨てすぎ」と口を尖らせた。
でも、楽しかったなと思う。
別に綺麗な思い出にするわけではないけれど、及川さんがなんであんなに女の子にモテていたのか少しわかった気もするし。私なんかにかまけてないで、さっさと他の子と付き合えばいいのだ。
「じゃあ、帰ります。」
「……。」
「気をつけて。風邪ひかないでくださいよ」
彼の顔も見ずに帰路と向き合った。
誰かに飛雄のことを話したのは初めてだ。少しだけ胸がスカッとした。肌寒い気温を感じながら、私は無性に走りたくなった。
サヨナラの手をふる
(20150924)