第1章 きみを見つけた
彼女を見かけたのは、それから数日後のはなし。
休み時間、通りすがった自販機の前に見覚えのある少女が立っていた。思わず立ち止まってしまった。俺はこの子を知っているのだ。中学のときバレー部のマネージャー。なまえ。昔まとめていた髪は下ろしていて、少し大人っぽくなったようだ。でも変わらない。そのピンと張った背筋も、あの嫌いな後輩を彷彿させる、真っ直ぐな視線も。
「なまえちゃん、久しぶり」
一瞬考えたけど、やっと声をかけてみた。
実は、俺のちょっと苦手なタイプの女の子。ポーカーフェイスで何考えてるかわからないし、それに何より、
「…?すいませんが、どちら様ですか?」
「ひど!!俺だよ、俺!」
「あの、詐欺ですか?古いタイプの」
「及川さんだよっ!」
こんな感じ!
この、俺を覚えてないとか!ありえないでしょ!俺、結構有名だったし、ていうか、マネージャーやってたでしょ。久しぶりの彼女の冷たい対応にぐるぐる頭がまわる。相変わらず。相変わらずである。そう、この子は天然の毒舌なのだ。
「…ああ、及川さん、ですか。どうも。こんにちは」
「うん。なまえちゃん、うちにきてたんだね。知らなかった」
「別にわざわざ、報告するもんでもないですし」
「高校でマネージャーはやらないの?」
「さぁ。今んとこやる気はないです」
俺と会話しながらも、目は自販機のジュースに向いている。どれを飲もうか考えてるのだろうか。一向に目の合わない彼女に、俺は少し意地悪な気持ちになった。
「飛雄がいないから?」
「……はい?」
「飛雄と付き合ってたんじゃないの?だからてっきり、同じ高校に行ったのかと思ったよ」