第8章 夜にとける
はは、と自嘲ぎみに笑う及川さんは、少し様子が変だった。夜のせいか、暗くて表情がよめない。もともとこの人は、へらへらしていて掴みどころのない人ではあるが。
ここ何日かで少しずつわかってきたこの男を、私はまじまじと観察した。
「…そんなに見つめて、どうしちゃったの」
「いえ、及川さんは…私と飛雄のことが聞きたいんですか」
思い当たる点はそれだけだ。私が飛雄への気持ちを認めた途端、家に来るなんて無茶を言い出したのだから。…この人は、よくわからない。
及川さんもよくわからない顔をした。イエスなのかノーなのか。知りたいのか知りたくないのか。
「…………聞いてやってもいいよ」
たっぷり間を空けたあとの、この上から目線である。
夜にとける
(20150716)