第8章 夜にとける
飛雄が抱えているぴかぴかのボールを指すと、彼は目をまんまるにして、「昨日買ってもらった」とどこか嬉しそうに言った。
「バレーするか」
唐突にボールを投げる。綺麗な放物線を描いたそれは、ふんわり私の腕の中に落ちてきた。なんで、とか。戻らなきゃ、とか。なんとなく有無を言わせない雰囲気で、私はおとなしくそれを投げ返した。こんなのバレーではなくただのボール遊びだ。わかっていたけど、何も言わなかった。
ボールは飛雄の手に吸い込まれ、飛雄の指先に合わせて自在に動きだしたように見えた。まるで生き物みたいに。不思議な感覚。今までは飛雄がなんでバレーボールなんかはじめたのかわからなかったが、
「飛雄くん、バレーボールのために生まれたみたいだね」
興奮のあまり、口走ったあのばかみたいな台詞を、彼はきっと覚えてない。