第8章 夜にとける
影山飛雄と出会った日なんて、私は覚えてない。
幼稚園から一緒だったのか、小学校から一緒だったのか、よく知らない。お互いになんとなく家が近いことを知っていたし、話すことはあったが、特別仲がいいわけではなかったから。ただ親同士はPTAの繋がりがあったようで、日常的な会話の中でよく「飛雄くん」の噂がでてきた。留守番が嫌いだとか、最近バレーをはじめたとか、
「……飛雄くん、なにしてるの」
小学5年の夏。太陽が照りつける炎天下、蝉がうるさく鳴いていたのをよく覚えてる。その中でも少しだけ涼しげな校舎の裏。壁に跳ね返るボールの音につられて足を踏み入れると、花壇の横に影山飛雄がちょこんと立っていた。真新しいバレーボールと共に。
「なまえ」と静かに私の名前を呼ぶ。正直、私の名前を知っていることが意外だった。
「クラスのみんなは、あっちでドッヂボールの練習してるよ」
「そっか」
「行かないの?怒られるよ」
夏休み明けに、クラス対抗のドッヂボール大会があった。そのためにみんな校庭で練習していたのだ。飛雄はあからさまに興味のない顔をした。もともと協調性がないやつだとは思っていたけど、何もわざわざこんなところでひとりにでいなくても。まぁ私が言えたことではないけれど。
「ねぇってば、」
「つまんねえもん。ドッヂボール。人に当ててなにが面白いんだよ」
確かに。
あっけらかんと言いのけた飛雄がちょっと面白くて、私は少し笑ってしまった。
「ふ、まぁね。面白くはないよね」
「だろ?」
「…ボール」
「ん?」
「バレーボール、新しいね」