第7章 恋を知る
「なまえちゃん、来てくれるんだよね?」
「……行くとは言ってませんよ」
「来てよ」と念を押すように呟いた。
不思議なことに、声だけのほうがなまえの感情はわかりやすい。明らかな戸惑いを見せた彼女に、俺の心は少し高揚した。
いつも澄ました顔で、中学のことなんかなかったみたいな顔で、この子は何を考えていたんだろう。絶対に、暴いてやりたい。ずっと、聞きたかったのだ。俺は目を閉じて、耳に神経を集中させた。面と向かって聞けないことを、電話で言ってしまうのはずるいだろうか。それでも、聞くならこのタイミングしかなかった。
「なまえは飛雄ちゃんのことが、好きなんだよね」
電話口の向こうで、なまえが小さく息をした。
沈黙は案外少なかった。いつもみたいに淡々とした声で、でも少しだけ苦しそうな声が返ってきた。
「好きですよ。きっと、私は一生、好きなんですよ」
恋を知る
(20150707)