第7章 恋を知る
「もしもし」
電話口から聞こえるなまえの、いつもより少し高い声。部活のあと、家に帰ってお風呂にはいって、寝る前にこの声を聞く。実はこうやって電話に出てくれない日もあるから、もうこれは俺にとって運試しみたいなものだ。
「なまえちゃん、何してた?」
「もう布団の中ですよ」
「相変わらず早いねー。俺はさ、これから明日の予習」
「予習?授業の?及川さん、そんな真面目じゃないですよね」
「真面目ですー。明日当たるんだよね、俺。岩ちゃんは見せてくれないし」
「当たり前です」と少し呆れたような声。
最近彼女と話していると、まるで普通の恋人同士のようだと思う。お互いに好き合っているような、幸せな感覚。でも、嘘っぱちだ。わかる。なまえは俺に何も許してないし、俺だって、いつも無性に苛々してる。
二人とも、心の奥の大事なところには絶対に触れさせない。この線から入って来ないで、って叫んでる。
「…なまえちゃん、今日、練習試合の相手決まったよ」
「練習試合?ああ、なんか、言ってましたね」
「烏野高校だって」
俺はあえてあっさりとした口調で言ってやった。
高校名だけで、彼女ならピンとくるだろう。一瞬、空気が張り詰めたのを感じた。
その動揺が、受話器の向こうから伝わってくる。俺は今まで懐疑的だったことを、改めて確信した。やっぱりね。なまえはまだ飛雄のことを、