第6章 この気持ちを噛みころす
「…及川さん?」
「……今度、練習試合があるんだって」
「はぁ、よくやってますよね」
「土日はね。でも次は平日に組むらしいから、放課後見においでよ。国見ちゃん達もいるし、久しぶりにさ」
落ちたボールを拾い、なまえに放る。
やっと再開されたパスの中で、なまえが小さく「気が向いたら」と答えてくれた。
まぁ、いいだろう。
最初はどうなることかと思ったがなまえも大分心を開いてくれたように思う。順調にこのままこの子と付き合って、次に飛雄に会うときにドヤ顔ができればいいのだ。ただそれだけ。
…ただ、それだけなのだから。
「もう行きましょう。足、無理すると岩泉さんに怒られますよ」
「誰かさんのせいで、大分走らされたしね」
「だから、苦手なんですってば」
なまえが口を尖らせたところで、チャイムが鳴る。
俺たちは手をふって別れた。離れがたいなんて感情に慣れていない俺は、手の中のバレーボールをただただ見つめていた。
この気持ちを噛みころす
(20150702)